ジャジャハウス|Jia Jia House|加加好肆

井と戸のかたち

ここに住むのは4人家族と、血縁のない2人の共同生活者である。建主夫婦以外の4人も成人で、大人6人が共同生活する場となる。建築史家、翻訳家、建築家、美術家、メディア論を学ぶ大学生、美大生、それぞれが個性をもち、共同研究者、友人、地域の人びと、学生たちを巻き込んでさまざまな活動がこの家で展開するだろう。敷地は多摩丘陵にある学園都市の住宅地の一角にある。道路からは約4mの落差がある平場との間には、一部地山が残る斜面庭が横たわっている。約1世紀の時を経た自然の厚みを感じる場所である。

この家の活動は、2階の会所や厨房を中心におこなわれる。会所は既存庭そして道に面して並行にとり、L字に連続させるように厨房を配置した。そして、中央に階段書庫を設ける必要性からナインスクエアの構成が現れた。このエリアでは複数の活動が共存できるように、建具により領域を可変できる構成が求められた。そこでわれわれは、建具と架構の関係から問いなおすことにした。ナインスクエアグリッドの交点に立つはずの105mm角の柱を、鴨居を兼ねた梁を挟む75mm角の4本の束ね柱に変換した。そして幅1,650 mmの大判建具が、柱間に納まることなく縦横無尽に動く。従来であれば建具は柱間を往復するだけだが、ここでは柱間つまり架構がかたちを変えることで、建具がグリッド間を横断できるようになり可動域を広げている。

ブリッジを介したアプローチにより、2階床レベルは自ずと決まり、1階の階高は1.5階分の高さになった(間の層はロフト階として1階各室の面積を確保している)。2階中央の本に満たされた階段室から下階に降りる様は、まるで本の地層に潜り込んでいくかのようだ。その先には庭に開けたリビングが現れる。東からの光が、天井いっぱい並ぶ背表紙を照らす。2階はほぼ1室空間であるが、1階は個室群に分節した構成をとっている。4つの室は、成人になった子供たちと共同生活者らが使うが、今後住み手が移りかわる可能性が高い流動的な場である。

竣工後に、井戸というメタファーが浮かびあがった。上階からアプローチして下階にくだる様だけでなく、井はナインスクエアの梁型を想起させる字形であり、戸は建具と読み替えられる。井戸端会議ではないが、上階は早くも近隣の人びとが集う場所になりつつある。そして、これから下階の若い住み手たちによって、上階の活動が湧きたっていくだろう。振り返ってみるとわれわれは、この層状の地形に感化されて、井戸を建築として建ちあげようとしていたのかもしれない。


Credit
設計|Camp Design inc. / 藤田雄介・伊藤茉莉子・寺澤宏亮
   +青井哲人+青井亭菲
構造|円酒構造設計 / 円酒昇・西江太成
環境計画アドバイス|川島範久
施工|水雅 / 三浦尚平・伊藤京子・浦野洋平(棟梁)
写真|新建築社


Award
SDレビュー 2022 入選


Media
新建築住宅特集 2023年7月号>>
日経アーキテクチュア 2023年7月27日号>>
SD 2022>>