傘と囲い|Umbrella & Enclosure
軽量鉄骨プレハブ住宅の改修である。元々クライアント家族が住んでた家だったが、しばらく空き家になっていたものを、今はバラバラな場所で住んでいる母・息子や娘とその家族が、父の墓参りの際に訪れてみんなで集まれる場所に生まれ変わらせたいという要望から始まった。
軽量鉄骨プレハブ住宅の改修は、法規上・構造上の問題から非常に難しい状況にある。やるとすれば、既存外壁やサッシに手をつけないリフォーム程度の改修か、メーカー自身による高額な費用がかかる改修であれば可能だが、どちらも今回の予算や要望にそぐわないものだった。またクライアント家族が、大量生産の工業化住宅であるこの家にも愛着を持ち、なんとか活かすことを求めていた。家という場所に育まれる記憶や想いの力強さを思い知らされ、それに応えたいと考え建て替えではなく改修することにこだわった。

計画にあたり、既存躯体は劣化が激しい場所が多く、耐震性能を向上させたいという要望もあり、新たな構造を加えていくことを考えた。また敷地は東南面は角地で、北西側は隣地の住宅が迫っているが、コンテクストとは関係のないような窓の配置であった。そのため、開口部の開け方も更新するべきだと考えた。まず外壁はそのままの状態で、既存基礎の外周部に増築扱いで抱き基礎を行い、そこから木造の耐震補強となる壁を建てた。この壁は、既存の2階床と屋根下の大梁に緊結し一体化させている。その後で、錆びが回っている既存外壁を撤去し、結果的に耐震補強壁が新たな外壁の役割を担うことになった。外壁の更新を通常のスキームで行うと主要構造部の大規模修繕にかかったしまうため、行政に相談した上でこのようなスキームで進めることで、確認申請不要な内容での改修方法を見出した。
耐震補強壁は、スパイラル状に巡る帯壁が水平力を補強し、開口部並びの壁が鉛直荷重を足している。後者は木造における壁量計算と同じで、一定距離取れていれば入れる所はどこにでもいい仕組みになっている。そのため、開口部をコンテクストに応答させて開けることが可能になった。

そうして改修した住宅の内部は、外壁分広くなったことと、亜鉛メッキの鉄骨小屋組を表しにしたことで気積が増え、大らかで広がりのある空間が生まれた。また開けた角地側に開口部をあけたことで、外部への水平的な広がりも得ることができた。既存の軽量鉄骨と新たな木造壁を、それぞれ「傘」と「囲い」という建築の原初的なモチーフに還元して等価に扱うことで、改修が困難な存在であるプレハブ住宅だが、改修プロセス次第で活かしていける可能性があることを提示している。

Credit
設計|藤田雄介・辻佳菜子 / Camp Design inc. 
構造|金田泰裕 / yasuhirokaneda STRUCTURE
施工|栗田工務店
写真|長谷川健太


Award
日本建築学会作品選集2022


Media
日本建築学会作品選集2022
建築士 2022年1月号